坂村 健
公共交通オープンデータ協議会 会長
東京大学名誉教授
INIAD cHUB (東洋大学 情報連携学 学術実業連携機構) 機構長
公共交通オープンデータ協議会(ODPT)は、2025年9月に設立10周年を迎えました。設立当初は、東京オリンピック・パラリンピックに向け、首都圏の複雑な公共交通のオープンデータ化を目指して活動を行っていましたが、今では活動も全国規模に広がり、会員数も150を超えました。ODPTが運営する公共交通オープンデータセンターが配信するオープンデータは、すでに国内外の経路検索サービスをはじめとした様々なサービスに活用されています。
「公共交通オープンデータチャレンジ2025 -powered by Project LINKS-」は、オープンな共創の場を提供することで、既存の組織や研究の枠組みを超えた多様な専門知識を結集し、公共交通に新たな価値をもたらすイノベーションを創出するためのコンテストです。通算で6回目の開催となった今回は、前回に引き続き、公共交通オープンデータ協議会と国土交通省が共同主催での開催となりました。今回のチャレンジでは、関係各所のご協力のもと、JR東日本をはじめとした24社局の鉄道事業者、104社局の路線バス事業者、330組織のコミュニティバス、28組織のフェリー事業者、4社の航空・空港関係事業者、2社のシェアサイクル事業者、3事業者/9自治体のデマンド交通事業者の皆様のご協力をいただき、前回を上回る過去最大規模の公共交通データを提供することができました。
さて、今回のチャレンジの大きなテーマは、「交通空白」の解消です。そのために、これまでの鉄道、バス、航空、フェリー、シェアサイクルに加え、デマンド交通に関するオープンデータの公開を新たに開始しました。デマンド交通は、日本でも地域公共交通を維持するための切り札としてますます注目を浴びています。今回、SWAT Mobility Japan、順風路、MONET Technologiesの各社、およびデマンド交通を運行する自治体の皆様の多大なご協力のもと、日本で初めてGTFS-Flex形式でのデータ公開を行うことができました。この場を借りて感謝申し上げます。
さらに今回、国土交通省が推進する「ほこナビプロジェクト」との連携も行いました。本プロジェクトは、障碍のある方や高齢者、ベビーカー利用者の方々が、道路や駅構内といった歩行のための空間を、安心・円滑に移動するためのデータを整備する取り組みです。本チャレンジでは、都営大江戸線の駅構内における通路幅・段差・勾配、およびエレベーターやエスカレーターの位置などの情報を含む「歩行空間ネットワークデータ」も、新たに公開しました。
本チャレンジでは、国内外から約600人の開発者にエントリーいただき、一次審査を経て選出された13作品のファイナリストの皆さんを対象に最終審査を実施。その結果、最優秀賞1作品、優秀賞4作品、審査員特別賞5作品などの入賞作品が決定しました。いずれも、今後の公共交通の未来を具体的に形作る作品ばかりでした。
改めまして、本チャレンジにご参加された開発者の皆様、データ提供にご協力をいただいた交通事業者や地方自治体の皆様に厚く御礼申し上げます。今後とも、皆様と一緒に公共交通オープンデータの発展を図っていきたいと考えていますので、引き続きどうぞよろしくご支援のほどお願い申し上げます。
池光 崇
国土交通省 大臣官房 公共交通政策審議官
国土交通省では近年、Project LINKSおよびCOMmmmONSといったプロジェクトを通じて公共交通分野のデータ活用を推進しています。今年度は鉄道・バス・フェリー・シェアサイクルなど500にのぼる交通事業者の皆様のご協力のもと、過去最大規模のオープンデータ化を実現することができました。また、デマンドバス向けデータ形式であるGTFS-Flexの国内初のオープンデータ化も達成することができました。ご協力いただいたすべての関係者の皆様に、この場を借りて心より御礼を申し上げます。
今年のチャレンジの副題は「"交通空白"解消へ」です。「交通空白」と聞くと、地方や過疎地だけの問題と想像される方も多いかもしれませんが、実際には東京23区を含む全国2500の自治体がその解消を課題として挙げており、地方だけでなく都市部も含めた全国的な喫緊の課題となっています。
背景には、人口減少・高齢化に加え、深刻化する担い手不足があります。担い手不足により交通サービスの供給制約が強まるなか、学校や病院、商店などの統廃合が進み、むしろ交通サービスの需要は拡大しギャップが生じています。移動を支えているのがご家族や地域の方々であるケースも多く、その方々の可処分時間が失われることで、所得の減少や少子化、さらには地域経済の縮小へとつながる構造的な問題も生じています。交通の問題は、交通にとどまらない広がりを持っているのです。
こうした「交通空白」の解消には、データの標準化やオープンデータ化の推進、そしてデータの活用といった地域交通DXの推進が不可欠です。公共交通・教育・福祉・商業といった分野を横断したデータ連携を一層進めていくことが、これからの大きな鍵になると考えています。
この公共交通オープンデータチャレンジで、地域交通の課題解決に挑む皆さんの取り組みが、今後さらに広がり、「交通空白」の解消という社会的な変化につながっていくことを心から期待しています。

坂村 健
公共交通オープンデータ協議会 会長
東京大学名誉教授
INIAD cHUB (東洋大学 情報連携学 学術実業連携機構) 機構長
今回の公共交通オープンデータチャレンジは6回目の開催ですが、毎回作品のレベルが上がっていると感じています。回を重ねることで過去の入賞作品から学ぶ機会が増えていること、そして生成AIの活用が当たり前になるといったデジタル技術の著しい進化、この2つの相乗効果によって優れた作品がたくさん生まれるようになってきたのだと思います。
入賞した作品を、まず目的の観点から見てみると、大きく4つに整理できます。1つ目は「快適に公共交通に乗る」を目的としたもので、「すわれ~る」「東京終電マップ|TOKYO LAST TRAIN MAP」「「めぐる」都営バス遅延予測システム」「エモルート」がこれにあたります。2つ目は「地方創生に役立てる」という観点の作品で、「コミバスをつくろう!」「Mobiviz -デマンド交通分析システム-」「Traffic Echo」「STAYLINE」がこれにあたります。3つ目は「安全・安心に移動したい」を目指した「Safe Pedal」「ノッタヨ」「ふみレコ」。そして4つ目は少子高齢社会において高齢者・障碍者・ベビーカー利用者といった「誰もが移動できること」を目指す「Waaalk - 歩いて、乗って、冒険へ。」と「EkiLink」です。今回の公共交通オープンデータチャレンジの狙いに合った作品が多数寄せられたことは、大変嬉しく思います。
またデータの活用といった技術面に着目すると、公共交通オープンデータと異種のデータの新たな組み合わせを提案する作品が多数あった点も、特に評価できる点でした。日本道路交通情報センター(JARTIC)が提供する交通規制データを活用し、最優秀賞となった「Safe Pedal」は、その好例です。時刻表のデータと歩行空間ネットワークデータを組み合わせた「Waaalk - 歩いて、乗って、冒険へ。」の作品も印象的でした。移動におけるバリアフリーの実現を情報面から後押しするこれらの取り組みは、今後ますます重要なテーマになっていくはずです。
さらに、今回からオープンデータに加わったデマンド交通データを活用した作品が多く登場したことも大変嬉しいことでした。「Mobiviz -デマンド交通分析システム-」と「Traffic Echo」はその代表例です。これをきっかけに、デマンド交通データのオープンデータ化がさらに進んでいくことを期待しています。
回を重ねるごとに作品のレベルが上がり続けているこのチャレンジは、データ活用の可能性をその都度広げてきました。今回の受賞作品もまた、その確かな積み重ねを示すものでした。参加された皆様のアイデアと技術が、日本の公共交通の未来を切り拓いてくれることを期待しています。

内山 裕弥
国土交通省 総合政策局 モビリティサービス推進課 総括課長補佐
Project LINKS テクニカル・ディレクター
PLATEAU アドボケイト 2025
東京大学 空間情報科学研究センター 協力研究員
国土交通省では現在、地域交通DX推進プロジェクト「COMmmmONS(コモンズ)」というプロジェクトのもと、公共交通領域におけるデータやシステムインタフェースの標準化に取り組んでいます。こうした標準化の取り組みは、コンシューマ向けサービスの改善にとどまらず、まさに今回のチャレンジのサブタイトルでもある「交通空白」の解消を政策的に実現していくためのものです。
今回受賞された作品を振り返ると、データの可視化にとどまらず、独自のアルゴリズムや独自に収集したデータを駆使して地域課題を解決しようとする明確なビジョンを持った作品が揃っており、全体的にレベルが大きく上がったと感じています。
最優秀賞の「Safe Pedal」は、車道データという独自のデータを深く調査・実装し、解決したい課題への明確なビジョンがプロダクトの品質にも表れた、コンセプト・完成度ともに素晴らしい作品でした。「コミバスをつくろう!」「Traffic Echo」「Mobiviz -デマンド交通分析システム-」の作品は、国土交通省で開発・オープンソース化を行っている自治体向け政策立案支援システムとの親和性が高く、連携の可能性を感じさせるという点で印象に残りました。
Project LINKS賞を差し上げた「STAYLINE」は、GTFSだけでなくオープンに提供されている商用サービスのAPIを組み合わせて具体的なサービスに仕上げている点を評価しました。「すわれ~る」は、使いこなしが難しい大都市交通センサスのデータをうまく活用した点が優れていました。また「「めぐる」都営バス遅延予測システム」は、AI分野の大規模言語モデル(LLM)の技術が注目される昨今にあえて機械学習モデルを選択しており、プロダクトを良くするのはこうした枯れた技術だという点に深く共感しました。
AIを使えば誰でも作れる時代だからこそ、解決したい課題への執着や技術・データへのこだわりが作品の価値を左右します。今回のファイナリストの皆さんの作品にはまさにそれが感じられました。国土交通省では、引き続きオープンデータの拡充とイノベーション創出のための環境整備を進めていきます。ぜひ引き続きご注目ください。

ツージェン・チャン(Tzu-Jen Chan)
GTFS Program Manager, MobilityData
GTFSやGBFSといった国際データ標準を推進する立場として、これほど多くの活用事例に出会えたことをたいへん嬉しく思っておりますし、私自身も多くを学ぶことができました。
「Mobiviz -デマンド交通分析システム-」と「Traffic Echo」は、GTFS-Flexを交通計画の視点から活用し、「交通空白」の課題に対する解決策がきちんと示されていました。GTFS-Flexの策定当初は、主に経路検索への活用を想定していましたが、そうした想定を超えた使われ方を目の当たりにすることができ、たいへん印象的でした。
「Waaalk - 歩いて、乗って、冒険へ。」は、散策体験を豊かにするという発想がとても素晴しかったです。住民の健康増進や観光体験の質向上にもつながる可能性があり、今後の発展がたいへん楽しみです。「Safe Pedal」は、京都を舞台に自転車の安全やオーバーツーリズムといった課題に真摯に向き合っており、その完成度の高さと実装への堅実なアプローチが強く印象に残りました。
他にも複数のデータを組み合わせることで新しい価値を生み出す作品が数多くあり、オープンデータの可能性を改めて実感しました。MobilityDataは、今後も国土交通省や公共交通オープンデータ協議会をはじめとする日本の皆様と連携しながら、公共交通分野のイノベーション支える基盤づくりに貢献していきたいと考えています。

山口 智丈
東日本旅客鉄道株式会社 マーケティング本部戦略・プラットフォーム部門デジタルビジネスユニット マネージャー
今回、「公共交通オープンデータチャレンジ2025 -powered by Project LINKS-」コンテストにご参加いただいた皆様には、心より感謝申し上げます。
私はこれまで、第1回の公共交通オープンデータチャレンジからさまざまな立場で参加してきました。当社がこのチャレンジに参加する意義は、チャレンジを通じて生まれたプロダクトが向き合っている課題やニーズが、単なる仮説や思い込みではなく、現実の場で実証された本物であると確認できる点にあると思っています。今回受賞した作品はまさにそれを体現しており、実際に公共交通を利用する人々の声や体験に根ざした課題に真摯に向き合っているものばかりでした。
JR東日本賞を授与させていただいた「EkiLink」は、今回は大江戸線が舞台となっていましたが、当社の駅も構造が複雑で利用しづらいというお声をいただくことがあります。 たとえばエレベーターについては、メンテナンス中でやむを得ず迂回が必要になる場合もあり、そうした情報をどのように提供すべきか、当社でも検証していく必要があります。
私たちがまだ提供できていないデータも含め、このチャレンジを通じた連携をさらに深めながら、公共交通の利便性向上に取り組んでいきたいと思っています。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

末廣 将志
SWAT Mobility Japan株式会社 代表取締役
「公共交通オープンデータチャレンジ2025 -powered by Project LINKS-」にご参加いただいた皆様、お疲れ様でした。オープンデータを活用してこれほど素晴らしい作品が生まれるのかと、大変感動しました。
それぞれの作品は、顧客視点での課題をとらえ、どう解決するかを明確に打ち出しており、社会課題への向き合い方も含めて大変説得力があったと思います。どの作品も自分事として捉えながら審査することができました。
弊社は、オンデマンド交通の運行システムやモビリティに関するデータ分析システムを提供しており、今回のチャレンジで扱ったオープンデータを扱う機会も多くあります。そのため、今回発表いただいた作品と、弊社のサービスに高い親和性を感じました。
その中でも、自治体や交通事業者の課題解決を目指している点で、「コミバスをつくろう!」と「Mobiviz -デマンド交通分析システム-」には特に共感を覚え、何か協業できる可能性があるのではないかと感じました。ありがとうございました。

別所 正博
INIAD(東洋大学情報連携学部)教授
過去最大規模の公共交通オープンデータが公開された今回のチャレンジでは、多数の開発者の皆様にエントリーをしていただき、作品開発に取り組んでいただきました。その中でファイナリストに選ばれ、入賞を果たした作品は素晴らしいものばかりで、大変刺激を受けました。
今回のチャレンジで特に印象深く感じたのは、学生の皆様を中心とした、若い開発者の方に多数参画いただけたということです。生成AI技術の普及により、ソフトウェア開発そのもののハードルが下がった結果、プロのエンジニアや研究者でなくても、コンセプトレベルではなく、高い完成度の作品を開発することが可能になりました。いかに地域交通の課題を見つけ、そしていかにアイデアと技術で解決するかが、勝敗の分かれ目となっています。実はINIAD賞は、当初学生の皆様の奨励賞として設けられましたが、回を重ねるごとに学生さんの作品レベルが着実に上がり、今回のチャレンジでは、学生さんのチームの作品「Safe Pedal」が、見事最優秀賞を受賞するに至りました。本チャレンジの開催を通じ、「交通空白」の解消をはじめとした公共交通分野の課題に、若い世代がこれほど関心を持ち、高い成果を上げてくれていることを大変頼もしく感じています。
また、鉄道やバスの時刻表といったいわゆる公共交通データに加え、それ以外の「移動」に関わるデータを組み合わせた作品が増えたことが印象的です。最優秀賞の「Safe Pedal」は、交通規制データを活用しています。他にも「Waaalk - 歩いて、乗って、冒険へ。」は歩行空間ネットワークデータを、「すわれ~る」は大都市交通センサスを、それぞれ活用しています。これらのデータは、すべて広い意味では「移動」に関わるデータです。移動に関わる多様なデータを連携させるような作品が増えてきたことは、日本におけるオープンデータ活用の確かな広がりを示すものだと感じています。
今回のチャレンジでは、GTFSの標準化を進めるMobilityDataの特別協力もいただいていますが、実はGTFSでのグローバルなコミュニティーにおいては、駅構内の「移動」をいかにモデリングし、GTFSで表現していくのかということが、重要なトピックになっています。これは、今回のチャレンジで公開した駅構内の歩行空間ネットワークデータとも、特に親和性の高いトピックです。チャレンジの開催を通じて、日本の開発者の皆様の知見が、グローバルな公共交通オープンデータの発展につながっていくことも、期待してやみません。